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横浜地方裁判所 昭和32年(わ)1185号 判決 1959年10月30日

被告人 望月美智也 外六名

主文

被告人有城義重を懲役一〇月に、

被告人木津昭美を懲役一年六月および罰金八〇、〇〇〇円に、

被告人望月美智也を懲役一年六月および罰金一〇〇、〇〇〇円に、

被告人市田和雄を懲役一年六月および罰金八〇、〇〇〇円に、

被告人津野田忠重を懲役一年に、

被告人大島正己を懲役一年に、

各処する。

被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄が右各罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間それぞれ当該被告人を労役場に留置する。

被告人有城義重、同木津昭美、同望月美智也、同市田和雄、同津野田忠重、同大島正己に対し本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄から金一、七一八、一七五円を

被告人大島正己から金八五、〇〇〇円を

追徴する。

押収にかかる自動車検査証一枚(昭和三四年地領第三三六号の一)中変造部分を被告人市田和雄から没収する。

訴訟費用中、証人吉岡潔に支給した分はこれを五分し、その一づつを被告人有城義重、同木津昭美、同望月美智也、同津野田忠重、同大島正己の、証人高瀬寿美子に支給した分はこれを四分し、その一づつを被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄、同津野田忠重の、証人内田利昌に支給した分(昭和三三年六月二七日の公判期日に出頭した分)は被告人木津昭美の、証人羽原英一、同高橋平治、通訳人栗原玄二に各支給した分(栗原玄二については前同公判期日に出頭した分)はいずれもこれを六分し、証人沢田俊政、同市川茂、同内田利昌(昭和三四年五月二九日の公判期日に出頭した分)に各支給した分はいずれもこれを三分し、各その一づつを被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄の、証人竹内権次、同斎藤光義、同肥後義熊に各支給した分は被告人望月美智也の、証人吉沢勇清に支給した分は被告人市田和雄の、証人久保田一夫、同渡辺勝に各支給した分はいずれもこれを二分し、その一づつを被告人津野田忠重、同大島正己の、証人佐藤菊凍に支給した分は被告人大島正己の、各負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有城義重、同木津昭美、同望月美智也はいずれも外国自動車の売買を業とするもの、

被告人市田和雄は、昭和二六年七月から昭和三二年九月まで外国自動車の売買を業としていたもの、

被告人津野田忠重は、昭和三一年八月から昭和三二年一一月まで東京税関貨物取扱人として自動車売買業者の依頼により米軍人、外交官等より譲受けた外国自動車の譲受申告等の通関業務に従事していたもの、

被告人大島正己は、大蔵事務官にして、昭和二七年一〇月一六日から横浜税関東京税関支署業務第二課徴収係長昭和二八年八月一日から東京税関業務部輸入課徴収係長として、関税および内国消費税の徴収、関税および内国消費税の督促等の職務に従事し、その後昭和三〇年九月二〇日から右東京税関業務部徴収課長心得昭和三一年一月一日から同徴収課長として、関税および内国消費税の徴収、関税および内国消費税の滞納処分等の職務に従事していたもの、

であるが、

第一  被告人木津昭美、同望月美望也、同市田和雄は同じく外国自動車の売買等を業としていた分離前相被告人有城重吉等と共謀のうえ、日米行政協定に基き関税等に対し免税特権を有するアメリカ合衆国軍隊の構成員等が輸入するものの如く仮装して外国自動車を免税通関する不正行為により、これに対する関税、物品税を免れんことを企て、昭和三二年三月九日頃横浜税関に対し、米軍人ジエリー・シー・モーロー名義の一九五七年型ダツヂ乗用自動車一台(車台番号一四三二一三一六、原動機番号DP三〇―五八四二七)の三八〇様式免税輸入申告書を提出して免税輸入許可を受け、同月一二日頃、横浜市中区新山下町二ノ三保税倉庫楠原倉庫から右ダツヂ一台(価格一、七一八、一七五円)を引取り、もつて不正行為によりこれに対する関税三〇七、五八〇円、物品税三五五、九二〇円を免れ、

第二、被告人大島正己は、昭和三二年六月中旬頃東京都千代田区内幸町一丁目東京税関において被告人津野田忠重から分離前相被告人有城重吉が元軍属たるトーマス・エツチ・ムーア名義で身分喪失による通関証明書の発給を求めようとしてその目的を遂げなかつた前記第一、記載の一九五七年型ダツヂ乗用自動車一台につきその通関を受くる見込ある手続方法を諮られるや被告人津野田に対しその自動車の譲受人が譲渡人たる外人に金員を貸与したとの架空の貸借関係によりこれが代物弁済として、右ダツヂの所有権を取得した旨の記載ある公正証書を添付して大蔵省税関部長に上申すべき旨指示し、よつて右被告人津野田等をして公証人に右同旨の虚偽の代物弁済契約の成立を公正証書原本に記載せしめることを決意させ、被告人津野田等をして同月二二日東京都千代田区霞ヶ関一ノ一番地東京地方裁判所構内公証人役場において公証人十蔵寺宗雄に対し前同旨の内容の虚偽の代物弁済契約成立の申立をなさしめ、よつて同日同所において右十蔵寺宗雄をして公正証書の原本に不実の記載をなさしめ、もつて公正証書原本不実記載の教唆をなし、

第三、被告人有城義重、同木津昭美、同望月美智也、同市田和雄、同津野田忠重は前記分離前相被告人有城重吉および元駐留米軍々属である分離前相被告人トーマス・エッチ・ムーアと共謀のうえ、第一記載の一九五七年型ダッヂ乗用自動車一台につき公証人に虚偽の代物弁済契約の成立したことの申立をなし、公正証書原本にその旨記載せしめることを企て、前同日東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地三霞ヶ関公証人役場において公証人十蔵寺宗雄に対しトーマス・エッチ・ムーアが全く吉岡潔を知らず同人になんらの債務を負担した事実がないのにトーマス・エッチ・ムーアが昭和三二年四月一〇日吉岡潔から金一、五〇〇、〇〇〇円を弁済期同年六月一〇日の約にて借受けたが弁済期にその支払をなさず、その代物弁済として同年六月二二日その所有にかかる一九五七年型ダッヂ乗用自動車一台を吉岡潔に譲渡するとの代物弁済契約が成立した旨虚偽の申立をなし、よつて同日頃同所において右十蔵寺宗雄をして代物弁済契約公正証書の原本(昭和三三年地領第三〇三号の一)に右同旨の不実の記載をなさしめ、

第四、被告人津野田忠重は外国自動車の販売業者たる羽鳥栄七と共謀のうえ

(一)  昭和三〇年一〇月下旬頃東京都千代田区内幸町二丁目一番地東京税関において、被告人大島正己に対し、かねて右羽鳥栄七名義をもつて譲受申告がなされた外国自動車の関税滞納処分に当り他の税関と折衝するなど被告人大島正己からその職務上種々便宜な取計らいを得たことに対する謝礼ならびに将来とも外国自動車の譲受申告手続に伴う関税等の徴収に当つて便宜な取扱いを得たい趣旨の下に現金五、〇〇〇円を供与し、

(二)  昭和三一年四月二〇日頃前記同所において被告人大島正己に対し前同趣旨のもとに現金一〇、〇〇〇円を供与し、

もつていずれも被告人大島正己の職務に関して贈賄し、

第五、被告人大島正己は、

(一)  昭和三〇年七月下旬頃東京都中央区西銀座西八丁目七番地純喫茶店マグノリアにおいて、外国自動車売買業者たる小林慶浩からかねて同人名義をもつて譲受申告をなされた外国自動車の滞納関税の督促に当り、被告人大島正己が右自動車の所在を調査するなど職務上種々便宜な取計らいをなしたことに対する謝礼ならびに将来とも外国自動車の譲受申告に伴う関税等の徴収に当つて便宜な取扱いを得たい趣旨の下に供与されるものであることの情を知りながら現金一〇、〇〇〇円を受取り、

(二)  昭和三一年八月初旬頃、前記マグノリアにおいて前記小林慶浩から前同趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら現金五、〇〇〇円を受取り、

(三)  前同年一〇月下旬頃前記マグノリアにおいて前記小林慶浩から前同趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら現金五、〇〇〇円を受取り、

(四)  前同年一二月中旬頃前記マグノリアにおいて前記小林慶浩から前同趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら現金一〇、〇〇〇円を受取り、

(五)  昭和三二年一月下旬頃東京都千代田区内幸町二丁目一番地東京税関において前記小林慶浩から前同趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら現金一〇、〇〇〇円を受取り、

(六)  昭和三〇年一〇月下旬頃前記東京税関において被告人津野田忠重および外国自動車の売買業者である羽鳥栄七の両名から、かねて右羽鳥栄七名義を以て譲受申告がなされた外国自動車の関税滞納処分に当り被告人大島正己が他の税関と折衝するなどその職務上種々の便宜な取計らいをなしたことに対する謝礼、ならびに将来とも外国自動車の譲受申告手続に伴う関税等の徴収に当つて便宜な取扱いを得たい趣旨の下に供与されるものであることの情を知りながら現金五、〇〇〇円を受取り、

(七)  昭和三一年四月二〇日頃前記東京税関において被告人津野田忠重および羽鳥栄七の両名から前同趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら現金一〇、〇〇〇円を受取り、

(八)  昭和三二年一月下旬頃東京都中央区銀座二丁目一番地すき焼屋松坂において外国自動車の通関手続代行人たる沢田権五郎および外国自動車の売買業者たる今井義勇の両名から、かねて右今井義勇が右沢田権五郎を通じて譲受申告をなした外国自動車の徴収等につき被告人大島正己がその職務上便宜な取計いをなしたことに対する謝礼として供与されるものであることの情を知りながら現金二〇、〇〇〇円を受取り、

(九)  前同年四月下旬頃前記東京税関において前記沢田権五郎から同人が従来自動車業者の依頼によりなした外国自動車の譲受申告等に当り被告人大島正己がその職務上種々の便宜な取計らいをなしたことに対する謝礼ならびに将来とも外国自動車の譲受申告に伴う関税等の徴収に当つて便宜な取扱いを得たい趣旨の下に供与されるものであることの情を知りながら現金一〇、〇〇〇円を受取り、

もつていずれもその職務に関して賄賂を収受し、

第六、被告人市田和雄は、

(一)  法定の除外事由のないにもかかわらず昭和三二年二月四日頃、東京都港区芝新橋一の三二番地所在喫茶店フラミング内において非居住者である駐日米軍属ミチオ・ハヤミに対し、同人が駐日米軍属マサル・ムラシゲ名義で昭和三一年七月三一日東京都陸運事務所に新規登録していた外国自動車(一九五六年式クライスラー)一台の買受代金として内国支払手段たる二五二〇、〇〇〇円を支払い、もつて非居住者に対する支払いをなし、

(二)  法定の除外事由のないにもかかわず、同月二七日頃、東京都板橋区志村前野町所在富士ハイツ内において、非居住者である駐日米軍人ドナルド・アール・ケネデイに対し、同人が同年一月一二日東京都陸運事務所に新規登録していた外国製自動車一台(一九五六年式ビイツク)の買受代金の一部として五四〇、〇〇〇円を支払い、もつて非居住者に対する支払いをなし、

(三)  行使の目的をもつて、同年八月頃東京都港区芝桜川町一六番地所在東信自動車株式会社において、東京都知事の捺印ある同知事作成名義の乗用自動車五〇年式ビイツクの自動車検査証(番号A一一六一五〇号)(昭和三四年地領第三三六号の一)の型式欄に「五〇」年式とあるのを擅に「五六」年式と改ざんし、もつて右自動車検査証を変造し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(刑法第四五条後段の確定裁判)

被告人市田和雄は、昭和三三年六月二六日墨田簡易裁判所で道路交通取締法違反の罪で罰金一、五〇〇円に処せられたもので、右の事実は墨田区検察庁検察事務官藤田俊夫作成の昭和三四年一〇月七日附前科調書および同被告人に対する昭和三二年(わ)第一一八五号、第一三八九号、昭和三三年(わ)第八六一号、第八六二号事件の昭和三四年一〇月一五日の第一八回公判期日における同被告人の供述によつて認める。

(弁護人の主張に対する判断)

被告人木津昭美の弁護人秋山博、被告人市田和雄の弁護人山田重雄及び被告人津野田忠重の弁護人箕山保男は、本件公正証書の作成にあたり、分離前相被告人トーマス・エッチ・ムーアが日本語を解しないのにかかわらず通事を立会わせず(弁護人山田重雄は右事由のみ主張)、かつ白紙に右トーマス・エッチ・ムーアの署名をさせ、読み聞けも閲覧もなかつたから、本件公正証書原本の作成は、公証人法第二九条、第三〇条、第三五条、第三九条に違背し本件公正証書原本は無効のもの、あるいは成立していないものであり、右被告人等には公正証書原本不実記載罪は成立しない旨主張する。しかしながら刑法第一五七条が公務員に対して虚偽の申立をなして公正証書原本に不実の記載をなさしめた者を公正証書原本不実記載罪として処罰する所以のものは、かかる行為が真正な公正証書の内容に対する公の信用を害する危険あるがためであり、これ以外に実害の生じ得べきことは同罪の成立要件ではないものと解すべきである。そして公証人の作成した文書といえども、公証人法及び他の法律の定める要件を具備しない限り公正の効力を生じないことは公証人法第二条の規定しているところであるけれども、同法及び他の法律の規定する方式要件の軽重如何にかかわらず、公正証書原本がその全部を完全に具備しない限り公正の効力を有しないものとすべきではなく、その方式要件についての各個の規定の趣旨により、証書が公正の効力を有するか否かを判断すべきものと解するを相当とする。本件において本件公正証書原本の作成に当り所論のような公正証書原本作成方式に違背する事由が存したものとしても、判示第三、の事実認定に引用した証拠によれば、トーマス・エッチ・ムーアは本件公正証書原本に記載された判示代物弁済契約がもともと虚偽のものであることを熟知しながら、この虚偽の契約を公正証書原本に記載することを公証人十蔵寺宗雄に嘱託し、同公証人は、その権限に基きトーマス・エッチ・ムーア等の嘱託により嘱託されたとおりの内容の代物弁済契約を公正証書原本に記載ししかもその公正証書原本は所定の様式を具備したものであることが認められるのであるから、所論の公証人法第二九条、第三〇条、第三五条、第三九条の規定の趣旨とするところは、実質的に貫かれているのであつて所論のような方式違背の事由は本件公正証書原本を公正の効力を生じない無効のもの、又は不成立のものとならしめるものではなく、本件公正証書原本は真正に成立したものというべきである。従つて被告人木津、同市田、同津野田の判示所為は人をして右代物弁済契約が真実であると誤信させる虞があり、公正証書の内容に対する公の信用を害する危険があるから、刑法第一五七条に該当するものとしなければならない。それ故弁護人等の右主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人有城義重の判示第三、の公正証書原本不実記載の所為は刑法第一五七条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号刑法第六〇条に該当するところ、その所定刑中有期懲役刑を選択し、その所定刑期範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認めるので同法第二五条により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとし、

被告人木津昭美、同望月美智也の所為中判示第一、の関税法違反の点は同法第一一〇条第一項第一号罰金等臨時措置法第二条第一項刑法第六〇条に、同物品税法違反の点は同法第一八条第一項第二号、罰金等臨時措置法第二条第一項刑法第六〇条に、判示第三の公正証書原本不実記載の点は刑法第一五七条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号刑法第六〇条に各該当するところ、右関税法違反の罪と物品税法違反の罪とは一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合であるから刑法第五四条前段第一〇条により犯情の重い前者の罪の刑に従い、なお懲役刑と罰金刑を併科し、右公正証書原本不実記載の罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるので懲役刑につき同法第四七条本文第一〇条により犯情の重い関税法違反の罪の刑につき法定の加重をなし、その刑期および罰金額の範囲内で被告人木津昭美を懲役一年六月および罰金八〇、〇〇〇円に、被告人望月美智也を懲役一年六月および罰金一〇〇、〇〇〇円に処し、なお右被告人両名に対し情状懲役刑の執行を猶予するを相当と認めるので刑法第二五条により本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとし、

被告人市田和雄の判示所為中第一、の関税法違反の点は同法第一一〇条第一項第一号、罰金等臨時措置法第二条第一項刑法第六〇条に、物品税法違反の点は同法第一八条第一項第二号、罰金等臨時措置法第二条第一項、刑法第六〇条に、判示第三、の公正証書原本不実記載の点は刑法第一五七条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号、刑法第六〇条に、判示第六の(一)、(二)の外国為替及び外国貿易管理法違反の点は同法第二七条第一項第二号前段、第七〇条第八号、罰金等臨時措置法第二条第一項、外国為替管理令第一一条、昭和二七年通産省告示第一一四号に、判示第六の(三)の公文書変造の点は刑法第一五五条第二項に各該当するところ、被告人には前示道路交通取締法違反の罪による確定裁判があり、同罪と右判示各罪とは刑法第四五条後段の併合罪であるので同法第五〇条により未だ裁判を経ない右各罪について処断すべきところ、右判示第一の関税法違反の罪と物品税法違反の罪とは一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合であるから刑法第五四条第一項前段第一〇条により犯情の重い関税法違反の罪の刑により処断することとし、なお右関税法違反および判示第六の(一)(二)の外国為替及び外国貿易管理法違反の罪についていずれも懲役刑と罰金刑を併科し、判示第三の公正証書原本不実記載の罪についてその所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるので懲役刑について同法第四七条本文、第一〇条により最も重い公文書変造の罪の刑につき法定の加重をなし、罰金刑について同法第四八条第二項によりその合算額以下において処断し、右刑期および罰金額の範囲内で被告人を懲役一年六月および罰金八〇、〇〇〇円に処し、情状懲役刑の執行を猶予するのを相当と認めるので同法第二五条により本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとし、

被告人津野田忠重の判示所為中第三、の公正証書原本不実記載の点は刑法第一五七条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号、刑法第六〇条に、判示第四の各贈賄の点は同法第一九八条、罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号、刑法第六〇条に各該当するところ、右各罪についていずれもその所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるので同法第四七条本文、第一〇条により重い公正証書原本不実記載の罪の刑につき法定の加重をなし、その刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状刑の執行を猶予することを相当と認めるので同法第二五条により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとし、

被告人大島正己の判示第二、の公正証書原本不実記載教唆の点は刑法第一五七条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号刑法第六一条第一項に、判示第五の各収賄の点は同法第一九七条第一項前段に各該当するところ、右公正証書原本不実記載教唆の罪についてはその所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるので同法第四七条本文、第一〇条により重い公正証書原本不実記載教唆の罪につき法定の加重をなした刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認めるので同法第二五条により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとし、

被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄に対する右各罰金刑については被告人等が右罰金を完納することができないときは刑法等一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人をそれぞれ労役場に留置することとし、

判示一九五七年型ダッヂ乗用自動車一台(車台番号一四三二一三一六、原動機番号DP三〇―五八四二七)は判示第一、の犯罪にかかる貨物であつて関税法第一一八条第一項本文によりこれを没収すべきところ、右犯行後第三者が情を知らないで取得していて没収することができないから同条第二項により犯罪が行われたときの価格に相当する金一七一八、一七五円を犯人である被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄から追徴することとし、

被告人大島正己が収受した賄路である現金合計八五、〇〇〇円はいずれもこれを没収することができないから刑法第一九七条ノ四により同被告人からその価額八五、〇〇〇円を追徴することとし、

押収にかかる自動車検査証一枚(昭和三四年地領第三三六号の一)中変造部分は判示第八の犯行を組成したもので何人の所有も許さないものであるから刑法第一九条第一項第一号、第二項により被告人市田和雄から没収することとし、

訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用し、証人吉岡潔に支給した分はこれを五分し、その一づつを被告人有城義重、同木津昭美、同望月美智也、同津野田忠重、同大島正己の、証人高瀬寿美子に支給した分はこれを四分し、その一づつを被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄、同津野田忠重の、証人内田利昌に支給した分(昭和三三年六月二七日の公判期日に出頭した分)は被告人木津昭美の、証人羽原英一、同高橋平治、通訳人栗原玄二に各支給した分(栗原玄二については前同日の公判期日に出頭した分)はいずれもこれを六分し、証人沢田俊政、同市川茂、同内田利昌(昭和三四年五月二九日の公判期日に出頭した分)に各支給した分はいずれもこれを三分し、各その一づつを被告人木津昭美、同望月美智也、同市田和雄の、証人竹内権次、同斎藤光義、同肥後義熊に各支給した分は被告人望月美智也の、証人吉沢勇清に支給した分は被告人市田和雄の、証人久保田一夫、同渡辺勝に各支給した分はいずれもこれを二分し、その一づつを被告人津野田忠重、同大島正己の、証人佐藤菊凍に支給した分は被告人大島正己の、各負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田作穂 大塚淳 小川昭二郎)

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